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今年初めてライブに行ったNICO Touches the Wallsファンが活動終了に思うこと

 歳を重ねるということは、だんだんショッキングな体験も積み重なっていくということなのかと思った。ロックバンド、NICO Touches the Wallsの活動終了。活動終了がイコール解散を意味するのか、何か別の形での再出発があるのか、文面から詳しくは分からないけど、少なくともNICOとしての活動は幕を閉じる。

  ただただ悲しい。俺はガチのマニアではないけど、好きなバンドTOP3に常に入るくらいにはNICOを聴いていた。流石にライトファンと言われたくはないが、コアなファンには到底及ばない、といった感じだろうか。コアなファンの人は当然もっと激しく落ち込んでいるだろうし、俺が文章にするのもおこがましいのだけど、それでも悲しいもんは悲しい。「ニワカ雨ニモ負ケズ」でその存在を知り、聴き漁り、ハマった。「手をたたけ」「ホログラム」「夏の大三角形」をカラオケで歌いまくり、「THE BUNGY」のギターリフをコピーした。アルバムも全部ウォークマンに入っていて、一通り聴いた。正直タイトルと曲が一致しないものもそれなりにあるけど、代表曲以外で好きな曲も沢山ある、それくらいのレベルのファンだ。「image training」も「B.C.G」も「容疑者」も「Ginger lily」も「サラダノンオイリーガール?」も大好きだ。OYSTER~TWISTER~QUIZMASTERの流れも追っていて、今年は初めてライブに行った(あの時は最初で最後になるとは微塵も思っていなかった)。自由にやりたい音楽をやってる最近のモードは聴いてるこっちも楽しくて、これからはどんな展開を用意しているんだろうとワクワクしていた。

 だからこそ、今回の一報は信じられない。爆発的に売れはせず、人気はそこそこだけど、ヒット曲を持ってて、音楽好きからの知名度も評価もあって、フェスでも大きなステージを任されて、実力も伴っている。続けようと思えばいくらでも続けられたと思う。NICOより知名度や動員が劣っても長くやってるバンドなんて結構いるんじゃないだろうか。それでもNICOを畳む決断をしたってことは、余程考えを重ねたのだろうし、そこに至るだけの大きな理由があったのだろうし、それは尊重するしかないな、という気持ちもある。

 NICOといえば、ライブで盛り上がったり、アニメタイアップにも対応できるポピュラリティを備えたアッパーチューンが大きな武器で、一般的に知られるところだと思う。はたまたコアなファンの人にとっては、それに相反するような無骨なギターロックのイメージこそがNICOなのかもしれない。そんな中、個人的に印象的なのは、NICOが作るバラードだ。あんなにも胸をギュッと締め付け、心を強烈に揺さぶるバラードを歌うロックバンドを俺は他に知らない。特に思い出深いのはアルバム「勇気も愛もないなんて」収録の「ウソツキ」と「勇気も愛もないなんて」だ。リリース当時、俺は青年期特有の居場所のなさや座りの悪さを感じたり、彼女との向き合い方に悩んだりと、非常に青臭い日々を送っていた。「ウソツキ」の一節"口にするのは偽物のアイラヴユー"なんて、まさに今の俺じゃないか?と感じ、こんなにも歌詞と自分がリンクするのかと驚愕した。「勇気も愛もないなんて」はそのメロディから、歌詞から、ギターから、悲哀や寂寥がこれでもかと伝わってきて、ストレートなメッセージソングを聴いてもピンと来なかった当時の俺の全身に染み渡った。NICOで一番好きな曲だ。それまでの俺は音楽を作品として、フィクションとして楽しんでいたから、曲をリアルな日々や境遇に重ね合わせるのは初めての体験だった。その頃から、葛藤を抱えながら不器用に前に進もうとするNICO人間性を知り、より惹かれていった。NICOは俺の人生の中でとても大切な作品を残してくれた。感謝の気持ちでいっぱいだ。これ以上を望むのは贅沢なのかもしれない。

 それでも。悔しいものは悔しい。なんと言っても、今年6月に見たライブがあまりにも素晴らしかった。結果的に最後の作品になった「QUIZMASTER」の楽曲が良いのはもちろん、揺るぎのない演奏、なによりもボーカル光村龍哉の圧倒的な歌唱力に心を鷲掴みにされた。今までもそれなりに他のミュージシャンのライブを見てきたけど、単純に「歌声」そのものにここまで胸を打たれたのは初めてかもしれない。唯一無二の声質、抜群のピッチ、どこまでも伸びる高音、セクシーな低音、繊細なファルセット、終盤まで衰えない声量、迫力。衝撃だった。なんでこの人たちが今くらいの知名度なんだろうと本気で考え込んだ。このバンドをより大好きになったし、次のライブも絶対行こうと思っていた矢先だった。

 正直、まだ全く飲み込めていない。あの日俺が東京ドームシティホールで見たのは、その5ヶ月後に活動を終えるようなバンドじゃなかった。もっと売れて欲しかった。あの才能がもっと世の中に知れ渡って欲しかった。それが無理でも、自由でシブくて格好いい、音楽ファンに愛される超実力派ロックバンドとしていつまでも鳴らし続けて欲しかった。

 もうNICOのライブは見られないし、新曲は聴けない。物事には終わりがあるとは言うけど、それにしても早すぎやしないか。俺の心の中は「今までありがとう、お疲れ様」と「なんでだよ、まだやれるだろ」がないまぜになっている。だからこの文章もきれいにまとめようが無い。しばらくは今までの作品を聴いて、このバンドを好きな気持ちを噛みしめながら様々な思いを巡らせようと思う。